salt2012’s diary

漫画の感想を読みたての気持ちのまま書き殴ります。

漫画【バチバチ】感想

 

f:id:salt2012:20210125102053j:image

↑表紙はとても惹かれない。ヤンキーものにしか見えない。

 

漫画 バチバチを読み終えての感想を書こうと思う。

 
あらすじはすごく簡単に言うとヤンキーが力士になる、というものである。
 
皆さんは相撲と聞いてどう思い浮かべるだろうか。
自分も皆さんと同じで、ダサい、国技、日本人横綱がいない、みたいな感じだった。
やっぱりサッカーや野球の方が周りと話しも出来るし、国対抗戦は燃えるものである。
 
昔弟に最近読んでる漫画ある?と尋ねたらバチバチ!と返ってきて、相撲かよ、ってかタイトルダサいな、としか思わず読もうともしなかった。
それでも何故か印象に残っていた国技相撲を描いた漫画。
最近作者が急逝してしまったとの事でニュースになっていてまた思い出した。
自分はそれでも読もうとは思わなかった。
ましてや結果として途中で終わってしまったのだから尚更である。
 
最近になり自分は漫画をアプリで読む事も多くなった。空いた時間で何気なく開いたマンガアプリで無料で読めることに気付いた。
それでも読もうとは思わなかった。
それはこの漫画が最後までは無料では読めなかったからである。
 
今更だがこの漫画は「バチバチ」「バチバチburst」「鮫島、最後の15日間」の3部構成となっていて、そのマンガアプリでは最後の鮫島〜は無料になっていなかった。
 
それでもヒマだったし、期限もあるだろうから読んでみた。
 
面白過ぎた。熱過ぎた。
 
今までのチケットを吐き出して読み進めてしまった。この漫画は凄い。無料分を読んだ後も鮫島〜は速攻で漫画喫茶で読み切ってしまった。それぐらいの勢いがある。
 
自分がこの漫画を読んでいて良いな、と思うのは相撲をただのスポーツとしてではなく、きちんと神事としての視点から描いている事だと思う。だから他のスポーツ漫画とは違う圧倒的な神々しさを感じるのである。
 
始めは鮫島が入門した部屋の先輩はどうみてもはじめの一歩の鷹村だろ、と思い、あぁ、あの流れのよくあるやつか、とも思った。
まぁ、読んでても実際鷹村なんだけど、そんなのは全然関係なかった。
 
横綱は神、度々この漫画ではそのフレーズが出るが、そんな視点は自分には一切なかった。ある意味で相撲界のチャンピオン、ぐらいにしか思ってなかった。
でも読んでるとそうではないとはっきり分かった。横綱にしかすることの出来ない神事もあり、また他の力士から扱いの別格さ、等いかに横綱というポジションが特別なものであるかと感じた。
 
自分は正直相撲を漫画、というのはムリだと思っていた。それはやはり一戦毎の短さであると思う。あの短さだと同じような取り組みも増えるし、試合前後の駆け引きだけがいたずらに長くなるのだろうと思っていた。サッカーや野球のように試合が長時間だから出来る点の取り合いやハプニング、途中交代でヒーローが出てきたりするようなドラマは起きようがないと感じていた。
 
でも違った。全然違った。
 
同じような取り組みはなく、なんなら後半に至っては単行本1冊をまるまる使ってしまう程に長い。それでいて長さを感じさせないのだから凄い。最近の漫画によくある回想の連打とかでなく、きちんと取り組みを描いている。魂が込もっている、という言葉が本当に実感できる。
 
もちろん相撲ってそんなに血が飛ぶっけ?とか思ったりしなくもないが演出としては良いのだろう。
 
突然だがこの漫画ははじめの一歩と前半は少しイメージが被るように感じる部分も多かった。
主人公のタイプや境遇こそ違えど部屋の先輩達の雰囲気や同期の強烈なライバル達、ケガでの引退など感じる部分も多かった。ボクシングも相撲と同じ個人戦であることもあるのだろう。しかし相撲はボクシングとは違い、無差別級の競技である。それはつまり同部屋の兄弟子達と戦うこともあるということだ。一歩では各々のドラマを別階級毎に描いていた。その度に主人公が実質入れ替わっていた。しかし、バチバチではいずれも家族でもありライバルでもあるとしても描いている。それはつまり言うなれば主人公同士が戦うということもあるということである。それが凄く熱い展開なのである。
 
また他の漫画との比較になってしまうが火ノ丸相撲との比較もしていきたい
火ノ丸相撲ではよく圧倒的な力量差を描く場合電車道で取り組みが終わることが多い。
自分はなぜか火ノ丸相撲は少しだけ読んでいたので、バチバチの取り組みもそういう感じなのかと思っていた。しかしバチバチでは電車道は一回だけである。そう一回だけなのだ。力量差を描く場合に、読者に印象付けるためにも電車道を使うことは簡単だ。正直火ノ丸相撲では電車道を乱用し過ぎだと思っていたので驚いた。同じ競技なのかと思う位出てこなかった。素直に言うとこれは演出力の違いなのだと思う。その為バチバチは本当に同じような取り組みがないのだと感じられる。ちなみにバチバチでは圧倒的な力量差を描く場合相手が張り手などで吹っ飛ばされることが多い。ある意味ワンパンに近い。個人的にはこっちの方がリアルにそして迫力を感じられたのだがどうだろうか。
 
大相撲では一場所当たり15日間の取り組みが行われる。バチバチでは対戦相手全員のドラマが描かれる。そして負けられない理由も描かれる。つまり15日連続でボスと当たる感じである。他の漫画なら途中経過は省いてしまうだろう。でもこの漫画はそれを良しとせず、相手全員をきちんと描いている。全員ボスの為、中だるみとかもない。凄い。一戦毎に熱くなれる。
他の漫画だとジャイアントキリングがまさにそんな感じである。リーグ戦のなるべく全試合を描いている。もちろんこれはとても大変で、サッカーの長い試合を描き続ける事は似たような展開が増え、マンネリしないように誰かを欠場させたり、代表戦などを挟むことでレギュラーメンバーを変えたり、ライバルとも同じチームになる、などする必要があった。試合数も多い為反省回では敗北もある。とはいえ結果として、試合展開自体は近いものも多かった。
それを考えると相撲は全試合描くのに最適なのではないかと思わされる。相手によって戦い方も異なるし、長時間の試合故の展開のマンネリも少ない。なにより毎試合相手が異なるのも良い。因縁の相手も多い為連勝し過ぎだからここらで不調にして負けとこうか、とかもない。一戦の重さも感じられる。そもそも大きなケガでもしたら欠場である。何試合か出られないとかではない、リーグ終了である。
 
身体の大きさ、これはこの漫画における主人公に与えられた大きな問題である。漫画でよくある背が低いとか、才能はあるがメンタルに難ありとかではない。他の漫画ではそれを埋める何かがあったりするのだが、この漫画では一切ない。それが痛い程に描かれている。それを埋めているのはただただ相撲が好き、という一点である。これも凄い。主人公がヒロイン目当てとかで入部して、特に思い入れもないものを始める、とかではない。鮫島は初めから相撲が好きだった。それを認めるようになるまでは少し時間がかかるが、ずっとストイックだ。ちょっと部活サボってゲーセンに、とかいう展開はない。考えているのは相撲に関してのみ。最終的には兄弟子として自覚も持ち、他人の世話などもするが、基本的にはずっと稽古。良くある日常編など本当にない。それでも鮫島だからしょうがない、むしろそれで良いと思ってしまう。後援会との時間も始めは時間のムダだと切り捨てていたが、次第に自分の環境への感謝を感じて大切にしていくようになる。大人になっていくのを、人としての器が大きくなるのを実感する。それが他の漫画では突然覚醒していくだけで終わっていくのと大きな違いに感じる。身体は小さくても器だけは負けない、そんな魅力的な主人公になっていく。
 
この漫画は思った以上に現実的な為、やはり横綱になるのは厳しいのだろう、似たような体型の力士が引退し、鮫島もタイトル通りに引退することになるのだろう。全試合全力、身体はなくても戦うには当たり前なのかもしれないが相手への礼儀も踏まえての取り組みに逆にそれが痛々しさを感じる。どれだけ頑張っても横綱にはなれない。部活で大会を優勝するのとは訳の違う目標だからである。
 
14日目、横綱との一戦を前にこの漫画は終了した。終了してしまった。どうやら誰かが引き継いで描くとかもないようだ。実際読んでいて思うが、誰も引き継げないと感じるからこそのここで終わりなのだろう。15日目は誰と戦うのか、神にどれだけ近付いているのかなどは分からぬままに終わってしまった。あまりにも残念だ。後半は魂を込めるなんてレベルではなかった。未完にこそなったが圧倒的な名作である。長くなったがまだ読んでない方がいてこのブログをきっかけに、バチバチシリーズを手に取っていただけたらとても幸いである。